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岡山地方裁判所 平成4年(ワ)110号 判決 1993年9月16日

第一事件原告(第二事件被告)

山崎昭

第一事件被告

中山勝

第二事件原告

東京海上火災保険株式会社

主文

(第一事件)

一  第一事件被告は、第一事件原告に対し、金五六万六三六〇円及び内金五一万六三六〇円に対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第一事件原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を第一事件原告の負担とし、その余は第一事件被告の負担とする。

四  この判決は、第一事件原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

(第二事件)

一 第二事件被告は、第二事件原告に対し、金六五万九二〇〇円及びこれに対する平成三年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は、第二事件被告の負担とする。

三 この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判(以下、「原告」、「被告」の表示は、当該事件における原告、被告を表し、事件の表示は省略するものとする。)

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金五一八万六〇〇〇円及び内金四七八万六〇〇〇円に対する平成二年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、原告に対し、金六五万九二〇〇円及びこれに対する平成三年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

(第一事件)

一  請求原因

1 本件交通事故(本件事故)の発生

(一) 日時 平成二年一一月九日午前三時四〇分ころ

(二) 場所 大阪市東淀川区柴島一丁目三番一四号先道路上

(三) 第一当事者 被告

(四) 右運転車両 普通乗用自動車(なにわ五六や一三九一、被告車)

(五) 第二当事者 原告

(六) 右運転車両 普通乗用自動車(岡山三三ね八一三三、原告車)

(七) 事故態様 被告者が原告車に追突したものである。

2 責任原因

(一) 本件事故は、被告の安全運転義務違反(前方不注意)等の一方的な過失により発生したものであるから、被告は、原告に対し、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。

(二) 仮に、被告に前記(一)による金額賠償の責任がないとしても、被告は、平成二年一一月二一日ころ、原告との間で、本件事故による全面的過失責任を認めて全面賠償を約束し、全面賠償責任の合意(本件合意)をなした。

3 損害 五一八万六〇〇〇円

原告車は、車名「メルセデスベンツ」(初年度登録は昭和五七年二月、平成二年一月に登録)で、「ベンツ五〇〇」という人気車種であり、七四〇万円で原告が購入した、かなり程度のよい車両である。

(一) 修理代 一九八万六〇〇〇円

(二) 代車料 一八〇万円(一日当たり三万円の六〇日分)

(三) 評価損 一〇〇万円(車両時価額七〇〇万円の二〇パーセントから修理代の三〇パーセントの範囲内の金額)

(四) 弁護士費用 四〇万円

4 よつて、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、五一八万六〇〇〇円及び内金四七八万六〇〇〇円に対する不法行為の日の翌日である平成二年一一月一〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1(一) 請求原因1の事実中、(一)ないし(六)の各事実は認める。

(二) 同2(七)の事実は否認する。

本件事故は、原告が、車線変更禁止の黄色実線のある被告走行車線直前に、禁止に違反して車線変更して割り込んで来たため、被告車前部と被告車右後部が衝突したものである。

2 同2、3は否認ないし争う。

(第二事件)

一  請求原因

1 本件事故の発生

(一) ないし(六)については、第一事件請求原因(一)ないし(六)と同じ。

(七) 事故態様 被告が被告車を運転中、中山勝(中山)の走行車線に割り込みしたため、両車が衝突し、両車が損傷を受けた。

2 責任原因

被告には、車線変更が禁じられている場所で、急に、中山の走行車線に直前で割り込んだ重過失があるから、被告は、中山に対し、中山車の損傷による損害につき、民法七〇九条に基づく賠償責任を負う。

3 損害

中山は、本件事故により、中山車につき、少なくとも修理代だけでも八二万四〇〇〇円相当の損害を被つた。

4 保険者代位

(一) 原告は、本件事故当時、中山との間で、原告を保険者、中山を契約者兼被保険者として、中山車の事故による損害につき、原告が保険金を支払つて填補する旨の自動車保険契約を締結していた。

(二) 原告は、平成三年二月中に、中山に対し、本件事故による中山車の修理代金として八二万四〇〇〇円の保険金を支払つた。

5 よつて、原告は、保険者代位による損害賠償請求として、被告に対し、前記4(二)の保険金の八割相当の内金六五万九二〇〇円及びこれに対する保険金の支払日後である平成三年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実中、(一)ないし(六)の各事実は認め、同(七)の事実は否認する。

2 同2ないし4は否認ないし争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとうりであるから、これを引用する。

理由

(第一事件)

一  請求原因1の事実(本件事故の発生)は、同(七)の事実を除いて、当時者間に争いがない。

二  本件事故の態様について

1  証拠(甲一ないし三、五ないし一二、乙一、乙二の二、乙三の一、二、証人松本雅宏、原告・被告各本人)によれば、本件事故現場は、淀川堤防沿いの東西に走る片側四車線(一車線の幅は約三メートル)、制限時速が五〇キロメートルの道路で、各車線間には、それぞれ車線変更禁止の黄色の通行区分線が引いてあり、対向車線(幅約六メートルの一車線のみ)とは、中央分離帯(ラバー分離帯)で仕切られ、東から西に向けては、前方長板橋北詰交差点の手前から上り坂になり、かつ、緩く右にカーブした状態にあること、被告は、片側四車線道路のうち、中央分離帯のすぐ南側の車線を当時少なくとも時速約七〇キロメートルで東から西に向けて被告車を運転して進行し、他方、原告は、隣接する南(左)側の車線を原告車を運転して同方向に進行していたところ、被告が、前方交差点の停止線手前付近に至つたとき、原告は、進路変更の合図をすることなく、急に右側の車線(被告進行車線)に進路変更し、被告車の前方に進出したこと、被告は、原告車を認めて、急制動の措置を取つたが間に合わず、前部わ北(右)側に向けた状態の原告車の右側後部に被告車の前部を衝突させ、原告車は、中央分離帯の切れたところから、対向車線に進出し、更に回転して東向きになつたことが認められる。

2  原告は、本件事故の態様につき、被告車が原告車に追突したものである旨主張する。

しかしながら、前掲証拠によれば、まず、車両の衝突部位は、原告車の右後部と被告車の前部であり、かつ、原告車の右後部は、その面積においてほぼ半分ずつを占める後部ドア部分及びそれより後方の部分が、ほぼ同様に(対称的に)凹損し、また、被告車の前部も、左右ともに相当程度損傷していること(左右の損傷態様には子細に監察すると相違があるが、全体的に評価すると、右側部分の方の損傷が激しいとは一概にいえず、しかも、右態様の相違は、原告車との衝突部位の違いや、衝突の角度が直角までは達していないこと等に起因するものとみられる)に鑑みると、両車が衝突した際には、原告車の右側側面と被告車の前部が直角にかなり近い状態にまで達していたことが認められる。ところで、現場が緩い右カーブの道路であることを考慮に入れても、被告車の方が原告車に対し直角にかなり近い状態まで左向きに回転するなどして、原告車の右側面に衝突していつたような状況は、本件全証拠によつてもこれを認めることはできない。そうすると、右両車の衝突角度に、前記1で認定した衝突後の原告車の進路と向き(対向車線に進出して東向きになるまで回転)を併せ考えると、原告車が、被告車の進行車線前方に、前部を北(右)側に向けて進出してきたため、まもなく被告車の前部と衝突するに至つたものと推認するのが合理的である。

更に、前掲証拠によれば、原告は、事故当日、単独で東淀川警察署に本件事故を届け出たが、その際、警察官に対し、本件事故の状況につき、原告車が右側の車線へ進路を急変更し、被告車が原告車の右側面後部を押した状態になつたものである旨供述したため、同署においては、右状況を示す現場図面が描かれ、事故類型についても、「追突」でなく、「その他」として処理されていることが認められる。

以上の事実に徴すると、本件事故は、被告車進行車線直前に、原告車が急に進路変更して進出きたため生じたものであると認めるのが相当であり、証拠(甲二、乙一の原告供述部分、証人松本雅宏、原告本人)中、右認定に反する部分は信用することができない。また、被告が、本件事故後現場から逃走したこと(なお、被告は届け出は遅れたものの、当て逃げの捜査は受けていない。)や、平成二年一一月二一日に、原告側と話し合つた際、本件事故に関し陳謝したこと等、前掲証拠によつて認められる事実は、未だ右認定を覆すに足りないというべきである。

三  原告、被告の過失の有無、内容及び過失割合について

そこで、前記二1で認定した本件事故の態様を前提にして、原告、被告の過失等につき、検討する。

1  原告の過失

原告車の進行車線(車両進行帯)は、進路変更の禁止を表示する道路表示(黄色実線)によつて区画されているから、原則として、その道路表示を超えて進路を変更してはならない(道路交通法二六条の二第三項参照)ところ、原告は、進路変更を行い、しかも、その際、進路変更の合図を行わないまま、急に被告車の直近の前方に進出した点に過失が認められる。

2  被告の過失

他方、被告には、被告車進行車線を進行するにあたつては、制限時速を守り、かつ前方を注視(前方の安全確認)して運転すべき義務があるところ、被告は、制限時速五〇キロメートルとされている本件事故現場を少なくとも約二〇キロメートルは超えた時速約七〇キロメートルで進行しており、かつ、被告が原告車を認めて、間もなく被告車に衝突したという本件事故の態様に徴すると、被告は、前方を注視し、前方の安全を確認しながら進行すべき義務については十分にこれを尽くしていなかつたものと推認でき、右の二点に過失があると認められる。

3  過失割合

そこで、原告と被告の過失割合につき考察すると、本件事故が発生した主たる原因は、前記1でみた原告の進路変更禁止場所における進路変更等の過失にあるというべきであつて、右過失の内容、態様に照らすと、基本的には、原告の過失が著しいといえるが、前記2の被告の過失もあるので、その内容、程度等、諸般の事情を併せ考慮すると、本件事故発生についての過失割合は、原告が八割、被告が二割と認めるのが相当である。

4  従つて、被告にも、過失が認められるから、被告は、民法七〇九条により、原告が本件事故により被つた損害(但し、前記3の過失割合により減額)を賠償する義務を負うことになる。

四  全面賠償の合意の成否について

原告は、被告が、平成二年一一月二一日ころ、原告との間で、本件事故による全面的過失責任を認めて全面賠償を約束することにより、全面賠償の合意をなした旨主張し、証拠(甲二、一二、原告本人)中には、これに沿う供述記載ないし供述も存在する。しかし、証拠(被告本人)に照らすと、同日の話し合いの席上、事故当日現場から逃走した被告が陳謝したり、原告の物損の賠償する意向を述べたりしたこと以上に、被告が本件事故につき全面的な過失責任を明確に認め、全額賠償の確約をした事実までは、これを認めることはできず、前記供述記載ないし供述部分は全面的に信用することはできない。

従つて、原・被告間における全面賠償の合意の成立は認められないというべきである。

五  損害について

1  原告車の修理代

証拠(甲八ないし一一、乙二の二、原告本人)によれば、本件事故により、原告車は右側後部が凹損するなど損傷したことが認められ、その修理費相当額が損害となるというべきところ、証拠(甲三=山陽ヤナセ株式会社作成の見積書)によれば、原告車の修理見積費用は一九八万六〇〇〇円程度となることが認められる。被告は、別の見積書(乙二の一)を提出しており、前記見積書と比較すると、部品の単価や修理方法等に相違がみられるが、未だ、前記見積書が不合理であるとまでは評価できない。

従つて、原告車の修理代は一九八万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

2  代車料

本件全証拠によつても、原告が、原告車を買い替え、或は修理する期間中(なお、本件証拠上、原告車を買い替えたり、修理した事実も認められない。)代車を使用した事実は認められない。従つて、代車料の請求は失当である。

3  評価損

証拠(甲四、原告本人)によれば、原告車は、メルセデスベンツ(初年度登録は昭和五七年二月、平成二年一月に登録)の「ベンツ五〇〇」という車種であり、原告が七四〇万円で購入していたものであることが認められる。右事実及び原告車の損傷の態様等に鑑みると、原告車には、本件事故により評価損(いわゆる格落損)が生じているものというべきところ、これを金額に見積り、評価損として、前記1の修理代の三〇パーセントに相当する五九万五八〇〇円を認めるのが相当である。

4  そうすると、本件事故により原告車に生じた損害額の合計(前記1と3)は、二五八万一八〇〇円であるところ、前記三3の過失割合に従い、八割の減額を行うと、被告が原告に対し賠償すべき金額は、右金額の二割である五一万六三六〇円となる。

5  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用相当の損害額は、五万円と認めるのが相当である。

6  まとめ

従つて、被告が原告に支払うべき賠償額の合計金額は、五六万六三六〇円となる。

六  結論

以上の次第で、原告の請求は、五六万六三六〇円及び内金五一万六三六〇円に対する平成二年一一月一〇日(不法行為の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(第二事件)

一  請求原因1の事実中、(一)ないし(六)の各事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因1(七)(本件事故)の態様については、第一事件の理由二で判示したとおりである(但し、「原告」を「被告」に、「被告」を「中山」に読み替える)。

三  請求原因2について

第一事件の理由三で判示したとおり、本件事故につき、被告に過失があるから、被告は、中山に対し、民法七〇九条に基づき中山に生じた損害(但し、過失割合により二割減額した金額)を賠償する義務を負う。

四  請求原因3について

証拠(乙三の一、二)によれば、中山は、本件事故により中山車を損傷され、その修理代の見積は八二万四〇〇〇円であることが認められるから、中山車の修理代は八二万四〇〇〇円と認めるのが相当である。そうすると、被告は、中山に対し、右金額の八割相当の六五万九二〇〇円を賠償する義務がある。

五  請求原因4について

1  証拠(乙五、九)によれば、請求原因4(一)の事実が認められる。

2  証拠(乙六ないし九)によれば、原告が、中山に対し、平成三年二月中に、中山車の修理代金として、前記四の修理代から免責額五万円を控除した保険金七七万四〇〇〇円を支払つたことが認められる。

右事実によると、原告は、被告に対し、商法六六二条一項により、右金額の限度で、中山が被告に対して有する損害賠償請求権を取得したことになる。従つて、被告は、原告に対し、右金額の限度内である前記四の六五万九二〇〇円及びこれに対する保険金の支払日後である平成三年三月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

六  よつて、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 徳岡由美子)

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